映画「ドラえもん のび太の新恐竜」に見る進化と絶滅(ネタバレあり)
昨日、長女と次女と3人で映画「ドラえもん のび太の新恐竜」を見てきました。
ネタバレありで、感想を書きます。
恐竜の絶滅と進化は、1カ月間、国立科博の真鍋真さんの連載「恐竜は進化する」を読んできたので、私には、とてもタイムリーな話題でした。
連載を読んで映画を見ると、ファンタジーとサイエンスの境界線がくっきりと見えて、違う映画の楽しみ方ができました。
ドラえもんと恐竜といえば、フタバスズキリュウのピー助が出てくる「のび太と恐竜」が懐かしいですよね。
今回の主役は、羽毛恐竜のキューとミュー。
キューとミューを仲間の元に返すために、白亜紀にやってきたのび太たちの大冒険です。
羽毛恐竜というと、昨年の国立科博の恐竜展がとてもおもしろく印象的でした。
こちらの主役は獣脚類のデイノケイルス。
獣脚類は、ティラノサウルスなどと同じで、太い後ろ足で、わりと速いスピードで走り回ります。
デイノケイルスも羽毛は体を温めるためのもので、翼があるわけではありません。
羽のような羽毛がある両手は、卵を温めるために使ったかもしれないのだそうです。
地面に作られた巣に、もしかしたら丸くドーナツ状に卵を並べて、その真ん中に座って、両手の羽で卵を温める・・・恐竜展に展示されたデイノケイルスの姿は、卵を温める鳥によく似ていて、こんなに賢かったのかと衝撃でした。
そんなデイノケイルスにあやかりたかったのか、キューとミューも獣脚類でした。
でも、ちょっと待って。
獣脚類って飛べるのかな?
白亜紀当時、空を飛べる恐竜もいたのですが、足の形も木に登れるようになっているし、獣脚類みたいに後ろ足に重心がある感じじゃないんですよね。
まあ、そこはファンタジーってことで、ってことなんでしょうね。
実際、キューとミューの描き方は、ほかの恐竜たちとかなり違っていました。
ほかの恐竜は、ヴェロキラプトルもティラノサウルスも、さまざまな恐竜が出てくるのですが、ウロコや羽毛もていねいに描かれていてなかなかリアルなのです。
でも、キューとミューは可愛くってとてもファンタジー。
どうやら、白亜紀をリアルに描きつつ、キューとミューは実在しない恐竜としてのファンタジーの要素を残したようです。
キューとミューの双子という設定にも大きな意味があります。
とても成長が早く、すぐに空を滑空できるようになるミューに対して、キューはのび太によく似た劣等生。
空が全然飛べないし、体も小さいままです。
ミューのように飛んでみな、と練習させても、両手を上下にバタつかせてしまって、ちっとも上手に滑空できないのです。
「これでは生き残れない」とのび太は心配して、キューを特訓するのでした。
この双子の特徴の違いには、とても大きな意味があることが、ラストで判明します。
キューが両手を上下にバタつかせるのは、特訓の末に「羽ばたき」になるのです。
鳥への進化の一歩、ですよね。
現実の世界ではこんなことは起きません。
動物は、努力で進化するわけではなく、同じ種の中でも多様な形態で生まれてきて、その時代の環境に適応した個体の方が生き残り、子孫を残して、適応できない子たちが淘汰されてしまうんですよね。
滑空できる多数派の羽毛恐竜の中で、翼を上下に動かすことができる少数派たちがより多く生き残って、その形質が次の世代、また次の世代と長い時間をかけて環境に合った特長がより強められていき、羽ばたける鳥へと進化していくのではないかと思います。
ドラマチックですよね〜。
でも、それではキューとミューの物語としてはまとめられませんよね(笑)
だから、滑空できる恐竜の仲間の中で、両手を不格好にバタバタさせてしまうキューが、実は「羽ばたく」という進化の先駆けだったという「進化の物語」は、子ども向けに進化を優しく伝えていて、いい感じだったのではないかと思うのです。
この物語を通して、ポケモンとは違う本当の動物たちの進化が、どうやって起きるのか、興味をもってくれると、とてもいいのではないのかな?と。
大切なのは、キューが、ほかの滑空する群れの中では劣等生でマイノリティーのいじめられっ子だということです。
ほかの子と同じようにできないということが、進化の中でとても大事なことなんですよね。
動物は、同じ種の中であっても、個々に多様で、その多様性の中に、環境が激変したときに生き残る可能性がある要素を持つ個体がいることが大事なんですね。
両手を上下に動かせるというのは、たぶんほかの個体と骨格が少し違っていて、関節が動きやすかったりするのかもしれません。
人間でいうと、それは「障害」と呼ばれるような、ほかのマジョリティーとは違う特徴なわけですが、その特徴があるからこそ、羽ばたくことができるんですよね。
多様であることの大切さ、君たち一人ひとりは違っていて大丈夫なんだよ、という映画のメッセージがなかなかいいんではないかなぁ、と思います。
ただ、羽毛恐竜が空を飛べたから絶滅を免れたのか、というと、真鍋先生の連載ではそうは書かれていませんでした。
恒温動物だったこと、羽毛で体温を保てたことは、一つの要素かもしれません。
卵を温めたりする頭脳を持っていたことも大事な要素なのかもしれません。
でも、それ以上に大きかったのは、巨大ではなかったということのようなのです。
巨大な恐竜たちは、草食も肉食も大量の餌を必要としました。
隕石が落下して、地球全体が雲で覆われ、寒冷期に突入したとき、多くの巨大な恐竜たちは餌を取れなくなり、絶滅していったのだそうです。
羽毛恐竜の中で、体の小さなものたちだけが、少ない餌で命をつなぐことができたのです。
空を飛ぶことで絶滅を免れたような話になっているのは、実際とかなり違う点のようでした。
さらに、もっというと、隕石の落下で起きた現象も、真鍋先生の記事に書かれていたことと、映画の中で起きたことは違っていました。
現実には、メキシコのユカタン半島の海に巨大隕石が落下し、直径200キロメートという巨大なクレーターができるのだそうです。
隕石落下の影響はすさまじく、空には大量の煤が舞い上がり地球全体を覆う雲となり、地表に日光が届かなくなった結果、寒冷期が訪れたといいます。
隕石落下の影響、ディープインパクトは、メキシコの周辺では、映画のように熱風が起き、各地で大火事が起きたりもしたようです。
それがどのくらいの広さに及んだのか、よくわかりませんが、かなり広大な範囲で熱風が起きたし、そのために広大な範囲で火災が発生したのだと思います。
でも、その熱風が映画のように、地球の裏側の日本近海にまで届いたかというと、それはどうなのだろう?という気がします。
一部の地域では、映画のように熱風や大火災の影響で恐竜たちも死んでいったかもしれません。
でも、日本近海では、煤が巻き上げられて地球全体を覆った雲の影響で、寒冷期が到来し、巨大な恐竜たちが絶滅していったと考えた方がよさそうです。
ドラえもんの映画に出てくるディープインパクトは衝撃的でした。
熱風というより、メキシコで発生した火災がそのまま日本まで到達したかのような勢いでした。
そして、のび太たちは、恐竜たちを助けるために大活躍します。
その中で、キューは必死で羽ばたき、子どもたちの目の前で、進化の瞬間が起きる、ということになります。
現実の絶滅も進化も、もっと時間をかけてゆっくりと進行していくのですが、ドラえもんではよりわかりやすく見せるために、すべてが短時間に一気に起こるわけです。
私たちは、この映画を見た後で、子どもたちとどんな風に映画の感想を言い合ったらいいのかな?とちょっと迷います。
「あんなのウソだよ」では、なんともおもしろくありません。
物語仕立てになった進化と絶滅を、より科学的な興味が湧くような話にしていくのって、なかなか難しいな、と思います。
絶滅という衝撃的な出来事と、その中でも小さなものたちが生き延びて、鳥へと進化していったという現実は、それだけでも十分にドラマチックで、「これは本当のことなんだよ」と教えたい気がします。
ファンタジーとしてわかりやすく描かれたドラえもんを元に、子どもたちの関心がサイエンスに一歩一歩近づくような、そんなおしゃべりができるといいなぁと思うんですけど、そんなに簡単じゃないですよね(笑)
子どもたちの好奇心をつぶさないように。
科学的な好奇心の芽が育つように・・・。